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ADF2009.01 リリースノート  2009年10月

新バージョンでは、磁気円二色性スペクトルや励起寿命を考慮した共鳴ラマンスペクトルなどスペクトル計算機能がさらに強化されたことに加え、Hybrid汎関数を使用したプロパティ計算の機能拡張がなされています。GUIにおいても、QUILDプログラムのマルチレイヤーの設定や、空間群の指定による結晶構造の構築、より多くのプロパティ(部分状態密度、ELF、STM、etc.)に対応した表示機能など、数多くの機能追加・改良がなされています。

Summary ADF2009.01 improvements

ADF
〇交換相関汎関数
 ・Hybrid汎関数によるエネルギーの解析的1次微分と数値的2次微分の計算
  (構造最適化、遷移状態探索、IRC、Linear Transit、数値的振動計算に対応)
 ・Hybrid汎関数による励起エネルギーとNMR化学シフトの計算。
  PBE0汎関数はNMRスピン-スピンカップリング定数の計算にも対応。
 ・meta-GGA汎関数(M06-L, TPSS)とmeta-Hybrid汎関数(M06, TPSSh)によるSCF計算と構造最適化計算
 ・OEP (exact exchange optimized effective potential)法
 ・Hybrid汎関数におけるHF交換項の比率の指定
 ・Cs-Rnまでの重元素に対する分散力補正汎関数
〇スペクトル計算に関連する機能
 ・励起状態の寿命を考慮した共鳴ラマンスペクトルの実装
 ・磁気円二色性スペクトル(MCD)とA, B, C項
 ・Verdet定数とFaraday B項
 ・メスバウアースペクトル
 ・スピン軌道相互作用を摂動的に取り込んだ励起エネルギーの計算
 ・TDDFT法におけるCOSMO計算
 ・NRVSスペクトル
〇SCF、ポテンシャルエネルギー曲面、その他
 ・MEAD静電プログラムによる周辺環境の効果を考慮するための自己無撞着反応場(SCRF)法
 ・Frozen density embedding(FDE)のエネルギー計算
 ・コアに関係するプロパティ計算のための、原子核の有限サイズを考慮した原子核電荷分布モデル
 ・凝集エネルギー解析と結合エネルギー解析のためのExtended Transition State-
  Natural Orbitals for Chemical Valence(ETS-NOCV)法
 ・SCFの収束が難しい系のためのEnergy-DIIS法とARH法
 ・高速振動計算や遷移状態探索のためのMobile Block Hessian(MBH)法
 ・マルチレベル計算プログラムQUILDの改良(GUIによるONIOM型の計算設定の対応を含む)
 ・様々なスピン状態を持つ系のSCF計算に有用なSpin-flip法
 ・系の一部分の内部自由度を”rigid body”として拘束
(これまでの部分拘束とは異なり、”rigid body”全体の変位は依然として考慮される)
ADF-GUI
ADFinput上でPDBファイルからインポートしたタンパク質分子構造の編集が可能になりました。また、溶媒和分子の周辺に溶媒分子の殻(シェル)を配置できるようになりました。
QUILDのマルチレベル計算の設定として、ADF-GUI上で、各領域に対する計算手法(DFT, MM, DFTB, MOPAC)の選択と関連するプログラム(ADF以外の外部プログラムを含む)の入力ファイルの作成が行えるようになりました。この新機能を用いて、MOPAC2009単独の計算設定や実行も可能です。ただし、MOPAC2009は別途インストールの必要があります。
電子状態または振動状態に関する部分状態密度が表示できるようになりました。本機能ではGUI上で選択した原子の寄与が表示できます。また、OpenBabelがADFのパッケージの中に含まれるようになりました。結合の判定やUFF力場を用いた簡易構造最適化などに利用できます。また、SYMMOLユーティリティが新たに追加され、分子の対称化操作がより簡単に行えるようになりました。さらに、より使いやすくなった機能として、ADFjobsにローカル計算用の逐次キューの追加と異常終了したジョブのエラー報告機能の追加がなされています。
BAND
ADFと同様、グッリドベースの高速なBaderのAtoms-In-Molecules (AIM)法がBANDにも実装されました。本機能は周期系のBader原子電荷を算出するのに使用できます。分散力補正汎関数が、有機結晶、ゼオライト、分子−表面間における弱い相互作用を正確に記述する汎関数として実装されました。meta-GGA汎関数に分類されるrevTPSS汎関数(Perdewらにより最近提唱された新しい汎関数)がエネルギー計算に使用できます。いくつかの新しい (meta-)GGA汎関数が構造最適化と遷移状態探索に使用できるようになりました。孤立分子系に加え、結晶のElectric Field Gradient (EFG)が計算できるようになりました。
BAND-GUI
結晶構造構築機能が大幅に改善され、空間群と対称サイトの指定で複雑な結晶構造の作成にも対応できるようになりました。作成した結晶はスラブ構造を構築するのにも使用でき、2次元周期境界条件下の計算に使用できます。また、cifファイルの読み込みにも対応しました。いくつかの典型的な結晶構造はテンプレートとして用意されています。
化学結合の理解に役立つElectron Localization Function (ELF)の計算とその可視化に対応しました。また、Scanning Tunneling Microscopy (STM)像の計算とその可視化にも対応しました。STM像の計算はバイアスの有無に対応しています。さらに、スピン非制限計算の可視化機能が改良され、バンド構造の表示においてアップスピンとダウンスピンが区別されるなどの改善がなされています。

DFTB
密度汎関数タイトバインディング計算用のパラメータファイルがADFのパッケージに含まれるようになりました。本パラメータはDFTBプログラムで使用します。

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詳細

ADF: gradients and numerical frequencies with hybrids

Hybridおよびmeta-GGA交換相関汎関数のSCF計算で、エネルギーの解析的1次微分と数値的2次微分計算が可能になりました。本機能は、ポテンシャルエネルギー曲面(構造最適化、TS, IRC, LT, 数値的振動計算)の研究に有用です。Hybrid汎関数の計算は、GGAに比べて非常に長い計算時間が必要になりますのでご注意ください。このため、Hybrid汎関数のデフォルト使用は推奨されません。

ADF: excitation energies and NMR with hybrids

励起エネルギーとNMR計算でHybrid汎関数が使用できるようになりました。ただし、NMRスピン−スピンカップリング定数の計算では、使用できる汎関数に制限があります。

ADF: meta-GGA’s and meta-hybrids during SCF and optimizations

いくつかのmeta-GGA交換相関汎関数(TPSS, M06-L)やmeta-Hybrid汎関数(TPSSh, M06, M06-2X, M06-HF)のSCF計算で、エネルギーの解析的1次微分と数値的2次微分計算が可能となりました。本機能は、ポテンシャルエネルギー曲面(構造最適化、TS, IRC, LT, 数値的振動計算)の研究に有用です。M06汎関数では、精度の高い数値積分が必要となり、計算時間が増加しますのでご注意ください。

ADF: exact exchange optimized effective potential method (OEP)

OEPが導入されました。Hartree-Fock交換項に相当しますが、今のところ有効性は限られています。

ADF: hybrids with user-defined percentage of HF exchange

HF交換項の比率を指定できるようになりました。これにより、HF交換項の結果への影響を検討することができます。

ADF: dispersion-corrected functionals for heavier elements

分散力補正汎関数のパラメータに、Prof. Grimmeによって提供されたCs-Rnの(未発表の)重元素用パラメータが追加されました。

ADF: other updates XC functionals

ADF2009.01より、PBE汎関数のデフォルトとして、LDA VWNの代わりにLDA PW92が使用されることになりました。また、Burkeによって提供されたGGA部分のルーチンが使用されるようになりました。
以下の汎関数が追加されました。
 ・GGAポテンシャル: PBEsol, SSB-D
 ・post-SCF GGAエネルギー: RGE2, revTPSS

ADF: resonance Raman using excited-states finite lifetime

これまでの共鳴ラマン計算機能は一つの支配的な励起状態がある場合のみの対応でしたが、より幅広いケースに対応できるように改良され、また、より使いやすくなりました。

ADF: magnetic circular dichroism (MCD), A, B, and C terms

MCDのすべての項が計算できるようになりました。一部の項について、GUIで可視化できます。

ADF: Verdet constant and Faraday B term

Verdet定数とFaraday B項が計算できるようになりました。実験値と比較できる値を得るためには、ポスト処理が必要となることがあります。詳細はSCMまでお問い合わせください。

ADF: Mossbauer spectroscopy

原子核上の電子密度が計算できるようになりました。この結果は、メスバウアースペクトルにおけるアイソマーシフトの理解に役立ちます(通常、実験値へのフィッティングが必要です)。

ADF: perturbative inclusion spin-orbit coupling in excitation energies

摂動法によるSpin-orbitを考慮した励起エネルギーが計算できるようになりました。この方法により、計算時間の短縮が図れますが、既存のZORAと異なる近似解法となります。

ADF: COSMO in Time-Dependent DFT

励起エネルギー計算においてCOSMOモデルが利用できるようになりました。これにより、溶媒効果による吸収スペクトルの変化などを検討することができます。

ADF: nuclear resonance vibrational spectroscopy (NRVS)

部分振動状態密度(PVDOS)を算出する機能が実装されました。本機能は、ADF-GUIから利用する機能で、選択した原子の部分的な振動スペクトルを得るために使用します。PVDOSは、生物無機化学におけるNRVSスペクトルの解析に有用です。

ADF: self-consistent reaction field (SCRF)

SCRF(自己無撞着反応場)は、量子化学計算において極性溶媒の効果を考慮するための方法です。溶媒は、連続誘電体としてモデル化されます。BashfordとNoodlemanらによる方法を利用するためには、Bashfordが作成したMEAD 静電 C++プログラムが必要です。ADFプログラムとの連携に関する技術的な問題から、当該プログラムはADFのパッケージには含まれていません。詳細は、SCM社までお問い合わせください。

ADF: FDE energy calculation

FDEエネルギーの計算機能が搭載されました。エネルギーは、周辺環境(frozen environment)と対象となる系(embedded system)の相互作用
エネルギーと対象となる系の全エネルギーの和として算出されます。この結果は、対象となる系の全エネルギー計算の結果に依存しますので、全エネルギー評価に関する注意点と制限に留意する必要があります。

ADF: finite size nuclear charge distribution

球状Gauss分布の原子核電荷分布モデルが利用できるようになりました。原子核の有限サイズは、重原子を含む系の超微細構造(ESR A-テンソル、NMR スピン−スピンカップリング)に大きな影響を与えます。

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ADF: natural orbitals for chemical valence (ETS-NOCV)

ADFのエネルギー分割スキームが、電荷、結合次数、エネルギー解析と組み合わされました。その結果として、化学結合のエネルギーを決定することができます。また、結果をADFviewで表示することも可能です。

ADF: energy-DIIS and ARH

HOMO-LUMOギャップが小さい場合などの収束の困難なSCFに対処するために、エネルギーを指標とした新たなDIIS法やAugmented Roothann Hall(ARH)法が追加されました。

ADF: mobile block Hessian (MBH)

MBH(mobile block Hessian)法は、大きな分子の振動計算において、対象となる系を内部自由度が固定された部分(rigid body)とそれ以外の部分(active site)とに分割することで計算時間を大幅に削減する方法です。rigid bodyとした部分の内部自由度は考慮されませんが、”active site”に対する”rigid body”全体の変位は考慮されているため、拘束を課しただけの方法とは異なり、精度を必要以上に落とすことなく振動計算が可能です。

ADF: multi-level Quild improvements including GUI support

ADFinputで計算設定がサポートされたことで、QUILDプログラムが非常に使いやすくなりました。また、QUILDプログラム自体にも、対称性の考慮や他の外部プログラムとの連携など、いくつかの新機能が追加されています。

ADF: spin-flip method for broken symmetry

反強磁性のようにサイトごとにスピンの指定が必要な計算では、SCFの収束が比較的容易な高スピン状態(どのサイトもスピンの向きが同じ状態)の計算を最初に実行した後、その結果をリスタートファイルとして利用し、スピン反転の指定を行う方法(spin-flip法)が有用です。このspin-flip法が新たに実装されたことで、既存のMODIFYSTARTPOTENTIALの機能と併せて、様々なスピン状態を持つ系の計算が非常に行いやすくなりました。spin-flip法はGUI上からの設定にも対応しています。

ADF: block constraints

MBH法に関連した機能として、構造最適化と数値的振動計算において、対象となる系の一部分を選択して、その内部自由度を固定できるようになりました。選択された部分(rigid body)の内部自由度は固定されますが、それ以外の領域に対する”rigid body”全体の変位は考慮されます。本機能はMBH法に基づく振動計算と組み合わせて使用できます。

ADF-GUI: partial DOS and NRVS

BANDと同様、ADFにおいても部分状態密度の計算が可能になりました。GUI上で原子を指定することで、その原子に射影された部分状態密度がADFdosユーティリティを使用して計算されます。同様の機能がIRスペクトルの解析にも用意され、GUI上で選択した原子のIRスペクトルへの寄与を表示できます。

ADF-GUI: improvements solvents, proteins, symmetrization

PDBファイルからインポートした分子構造の編集が可能になりました。また、インポートした分子構造の周辺に溶媒分子の殻(シェル)を配置できるようになりました。さらに、分子の対称操作を行うユーティリティであるSYMMOLが新たに追加され、分子の対称操作の設定がGUI上で簡単に行えるようになりました。

ADF-GUI: support multi-level calculations

QUILDのマルチレベル計算における領域の定義がGUI上で設定できるようになりました。また、各領域の計算レベルの設定がタブで管理されるようになりました。各領域に対しては、基底関数や汎関数などの計算レベルを変えて指定することが可能で、さらに領域ごとにADF以外のプログラム(MOPAC, ORCAなど)を用いて計算することも可能です。(外部プログラムは別途インストールする必要があります)

ADF-GUI: run DFTB, MM, MOPAC, OpenBabel

ADF-GUIでDFTB, MM, MOPAC2009の計算設定が行えるようになりました。ただし、MOPACは別途インストールする必要があります。OpenBabelはADFのパッケージに含まれており、結合の判定やUFF力場を用いた簡易構造最適化などに利用できます。

ADF-GUI: job queueing on desktop machine

ADFjobsにローカル計算用の逐次キューが実装されました。本機能により、複数ジョブを逐次的に実行できるようになります。これまでは、都度計算のみ可能で、効率的なハードウェア利用ができませんでしたが、本機能により夜間や週末にも計算を実行することが可能になり、研究の効率化が図れます。

BAND: fast Bader AIM charges

ADFと同様、BANDの周期系計算においても、グリッドを使用したAIM(Atoms-In-Molecule)法が利用できるようになりました。現在、AIM原子電荷が計算
可能です。

BAND: revTPSS and dispersion-corrected functionals

分散力補正汎関数は、ゼオライト、有機結晶、グラフェンなど、弱い相互作用の記述が必要となる系に有用な交換相関汎関数です。また、revised TPSS汎関数は、最近Perdewにより提唱された汎関数で、meta-GGA汎関数のカテゴリに分類されます。BANDのエネルギー計算において、これらの汎関数が使用できるようになりま
した。

BAND: electric field gradient (EFG) for solids

ADFと同様、BANDでもEFG(electric field gradient)の計算が可能になりました。

BAND-GUI: solid/surface builder with support for all space groups

周期系の計算を実行する際の最初のハードルは結晶構造の構築です。今回のバージョンでBAND-GUIの結晶構造構築が大幅に改善され、非常に使いやすくなりました。すべての空間群に対応し、対称サイトの指定にも対応しています。さらに、いくつかの典型的な結晶構造のテンプレートが用意されています。

BAND-GUI: import of .cif files

BANDinputがcifファイルの読み込みに対応しました。

BAND-GUI: ELF, STM images, other properties on any grid

3次元データの可視化が大幅に拡張されました。ELF(Electron Localization Function)とSTM像(バイアスの有無に対応)が可視化できます。使用する3次元グリッドはユーザ定義が可能です。

BAND-GUI: improved support unrestricted calculations

スピン非制限計算の可視化機能が改善されました。

BAND-GUI: visualization of Brillouin Zone

BANDstructureモジュール上でブリルアンゾーンの可視化が行えるようになりました。

DFTB: several parameter files included in distribution

DFTB用のパラメータファイルの一部がADFのパッケージに含まれるようになりました。パッケージ中のパラメータファイルに含まれている元素の組み合わせだけを有する系に対しては、ファイルのダウンロードなしにDFTB計算が実行できます。

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