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概要

Gaussian 09の新機能

Gaussian 09では、より大きな分子系に対するモデリングを実現するため、ONIOM法に関する機能の追加や大幅なパフォーマンスの改善が行われました。また、溶媒効果など、より広範な現実の環境をより正確に記述できるように、多くの新機能が追加されています。 以下では、Gaussian 09のいくつかの新機能についてご紹介します。

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ONIOM法を用いた大規模分子系に対する反応解析

Gaussianに搭載されているONIOMは、
1. MO:MM計算時にQM部分の計算中にMM部分の静電的効果を取り込める
2. MMレイヤーに属する原子とのカップリングを考慮した構造最適化
3. MMレイヤーでのmicroiterationを駆使した高速で安定した最適化アルゴリズム
など、様々な機能を持ちます。

Gaussian 09では、以下の新機能を含め、ONIOMの機能に関する多くの機能追加・改良が行われています。

ONIOMの新機能

  • 遷移状態構造最適化
  • 高速なIRC計算
  • MM電荷存在下での振動計算
  • 溶媒中の計算
  • パフォーマンスの向上
  • カスタマイズ可能なMM力場
  • 解析微分と振動計算を含めたAM1、PM3、PM3MM、PM6、PDDG半経験的方法
    (パラメータはカスタマイズ可能)

ONIOMの適用事例

IPNS非ヘム鉄を持つ酵素isopenicillin N synthase(IPNS)は5368原子(右図では水素を非表示)で構成されます。基礎的な生化学プロセスにおける重要な触媒として典型的な酵素です。この分子のモデリングにおいては、タンパク質マトリクスと金属中心がそれぞれどのように酵素系の触媒活性に寄与しているかが解明されています。

Reference: M. Lundberg, T. Kawatsu, T. Vreven, M.J. Frisch and K. Morokuma, JCTC 5 (2009) 222.

IRC Energy Plot画面

IRCQM部分の2次のカップリングをMM部分に厳密に取り入れたmacro/micro繰り返し最適化法の特性を生かし、この反応の遷移状態構造の最適化にGaussian 09のONIOM機能を用いています。最適化された遷移状態構造は振動計算によって確認され、右図のプロットに示す反応パスを計算するためのIRC計算の初期値構造として使われました。

IRC計算で得られた構造

(左から右へ)エネルギープロット上の対応する各点は*で印されています。中央の構造が遷移状態構造です。反応過程において、図中黄色で表される硫黄原子付近でのプロトン移動が見られます。GaussView5を使い、これらのイメージはIRC結果のアニメーションのフレームとして作成されます。

アニメーション

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気相中・溶液中の励起状態計算

励起状態計算に関する以下の新機能が追加されました。

  • Time-Dependent DFT (TD-DFT)法における解析的エネルギー微分
  • EOM-CCSD法
  • State-specific (SS)モデルに基づく溶媒効果を考慮した吸収・発光スペクトルの計算
  • 電子状態間の遷移に伴って生じる振動状態間の遷移確率の計算:
    Franck-Condon (FC)項、Herzberg-Teller (HT)項、Franck-Condon Herzberg-Teller (FCHT)項
  • CIS法とTD-DFT法に対する溶媒効果を考慮した計算機能のフルサポート
    (平衡・非平衡溶媒和の両方に対応)

FCHT法の適用事例:ポルフィリンのQxバンドの吸収・発光スペクトル

FCHT右図は、ポルフィリン(H2P)の吸収・発光バンドの計算値(上)と実験値(下)を比較したものです。実験値は、振動状態間の遷移を確認できるように、 高解像度の分光器で測定されたものです。計算値は、励起状態の計算にPBE1PBE汎関数を用いたTD-DFT法が使用され、振動状態間の遷移確率の計算にFranck-Condon Herzberg-Teller (FCHT)法が使用されています。なお、計算で得られた振動数には、調和近似に対する補正として、0.95のスケール因子が使用されています。
Gaussian 09の新機能により、振動状態間の遷移を考慮した吸収・発光スペクトルの計算が可能です。

Reference: F. Santoro, A. Lami, R. Improta and V. Barone, J. Chem. Phys. 128 (2008) 224311.

その他の新機能

その他、Gaussian 09には以下の新機能が追加されています。

  • 溶媒効果を考慮した計算:上述の励起状態計算の追加機能に加えて、SCRF法で使用される表面電荷の新しい表式が実装されました。この表式では、反応場の連続性と滑らかさが保証され、より安定したSCRF計算が可能になっています。また、原子座標と外場の摂動に対する微分値の連続性も保証されています。これにより、溶液中の分子に対して、より高速で信頼性のある最適化計算と精度の高い振動数計算が可能になりました。
  • Brueckner Doubles (BD)法における解析的エネルギー微分
  • 光学スペクトルの計算:解析微分による第一超分極率の計算、数値微分による第二超分極率の計算、解析微分による(動的)Raman強度の計算、解析微分による動的ROA強度の計算、非調和性を考慮した振動数計算の改良
  • 個々の軌道のポピュレーション解析
  • フラグメント軌道を使用したSCF計算のinitial guessの設定およびポピュレーション解析
  • 使い勝手の改善:リスタート機能の充実、分子指定セクション内でのフラグメントの定義、原子タイプ・ONIOMレイヤー・残基ごとに拘束を課した最適化計算、振動数計算時における興味のある振動数の選択とソート、post-SCF計算で求めた強度データの読み書き、基準振動モードの読み書き
  • 交換相関汎関数: 長距離補正、経験的パラメータを使用した分散力補正、double hybridなど
  • 計算速度の改善:大規模系の構造最適化計算、大規模系の振動数計算(16倍程度の並列化効率)、IRC計算(〜3倍の計算速度)、光学旋光の計算(〜2倍の計算速度)

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