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概要

ADF2008.01 リリースノート  2008年9月

本バージョンでは、COSMO-RS・fcf・ADFreportなどの5つの新モジュールやAIM解析・周期系のESR計算などの多くの新機能が追加され、ますます機能が充実しました。また、ソフトウェアの基本性能としての計算速度や並列化効率に関しても大幅に改善されました。

Summary ADF2008.01 improvements

ADF
グリッドを使用した高速な計算方法に基づくBaderのAIM解析のプログラムが実装されました。(動的)分極率の計算において、励起状態の寿命が考慮できるようになりました。磁化率の計算がサポートされました。既存のQM/MM計算に加え、より大きな系が取り扱えるように、新しいQM/MM計算が実装されました。新たに改良された最適化アルゴリズムが、構造最適化計算・遷移状態探索・transit計算(scan計算)・新しいlinear transit計算のデフォルトとして使用されるようになりました。Franck-Condon因子の計算が可能になりました。MMベースの分散力補正汎関数の設定が簡単に行えるようになりました。全エネルギーの計算が可能になりました(開発中)。新モジュールのadfprepが追加され、ADFの計算が簡単にスクリプト化できるようになりました。新モジュールのadfreportが追加され、スクリプトによる結果の解析が簡単に行えるようになりました。
ADF-GUI
ADFinputのpreoptimizerとして、DFTBと外部プログラムのMOPAC2007が選択できるようになりました。ADFviewがNBOの可視化に対応しました。ラマンスペクトルの計算設定が容易になりました。ADFの新機能の多くがGUIからの設定に対応しました。
BAND
遷移状態探索がサポートされました。拘束を課した構造最適化計算に対応しました。数値微分による振動計算がサポートされました。周期系におけるESR gテンソルとAテンソルの計算が可能になりました。Meta-GGA汎関数によるSCF計算および解析1次微分の計算が可能になりました。SZ基底関数系が新たに追加されました。DOSの計算方法が改良され、ピークが欠落する問題が修正されました。
BAND-GUI
BANDの新機能の設定に対応しました(Meta-GGA汎関数の設定を除く)。新モジュールのBANDdosが追加され、(P)DOSの可視化に対応しました。

COSMO-RS
新製品のCOSMO-RSがリリースされました。COSMO-RS (COnductor like Screening MOdel for Realistic Solvents) 法により、液体状態の純物質および混合物に対して、様々な熱力学物性の予測が可能になります。
DFTB
DFTBプログラムが追加され、タイトバインディング近似を適用した密度汎関数計算が可能になりました。

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詳細

ADF: Bader’s analysis

BaderのAIM解析のプログラムが実装されました。このプログラムは、グリッドを使用した高速な計算方法を用いており、数百原子程度の大きな分子に対して高速に計算することが可能です。デフォルトでは、電子密度のポピュレーション解析、部分電荷、電子密度のラプラシアン、双極子モーメント、および四重極子モーメントが計算されます。

ADF: QM/MM

既存のQM/MM計算に加え、新しいQM/MM計算が実装されました。この新しいQM/MM計算は、より高速かつ安定なプログラムコードになっており、大規模な系に対して少ないメモリ使用量で計算することが可能です。現時点では、Amberの分子力場のみに対応しています。

ADF: lifetime effect, magnetizability

新しいTD-DFTモジュールのAOResponseが追加され、励起状態の寿命を考慮した計算や(動的)磁化率の計算が可能になりました。

ADF: Franck-Condon Factors

新モジュールのfcfが追加され、Franck-Condon因子の計算が可能になりました。Franck-Condon因子は振動の波動関数の重なり積分の2乗として計算されます。光が照射されると、光遷移の選択則に応じて、電子状態間、スピン状態間、あるいは荷電状態間に遷移が生じますが、Franck-Condon因子は、それらの遷移に伴って生じる振動状態間の遷移確率を表します。光の吸収スペクトルや発光スペクトル、あるいは量子輸送現象で見られる状態間の遷移の強度の予測に使用できます。

ADF: MM dispersion-corrected functionals

Grimmeの分散力補正汎関数が新たに追加されました。Grimmeの分散力補正汎関数は、非常に使い勝手が良く、ADF-GUIからの設定にも対応しています。

ADF: improved optimization now default

最適化アルゴリズムが新たに改良され、以下の計算のデフォルトとして使用されるようになりました。
・ 構造最適化計算
・ 遷移状態探索
・ transit計算(scan計算)
・ 新しいlinear transit計算

ADF: Speed-ups

構造最適化過程における結合エネルギーの計算が高速化されました。NMRの計算プログラムであるNMRモジュールとCPLモジュールがlinear scalingおよび各種高速化に対応しました。Scalapackを使用することで、行列の対角化計算が並列化されました。

ADF: output, files

SFOのMO係数とSFOの重なり行列がデフォルトでは標準出力に出力されなくなりました。

スクラッチファイルの出力先が変更されました。新バージョンでは、logfileとTAPE13ファイルが作業ディレクトリの直下に、その他のすべてのファイルが「SCM_TMPDIR」で定義したスクラッチディレクトリの下に作成されます。「SCM_TMPDIR」が定義されていない場合、作業ディレクトリの直下にそれぞれのプロセス(子プロセスを含む)のサブディレクトリが作成され、そのディレクトリの下にそれぞれのプロセスのスクラッチファイルが作成されます。

Densf

任意の格子点が入力できるようになりました。電子密度の1次微分、2次微分、およびラプラシアンが計算できるようになりました。また、フローズンコア近似を使用した場合のコアの電子密度も取り扱えるようになりました。コアの電子密度に対しては、1次微分、2次微分の計算が可能です。

ADFviewにおけるクーロンポテンシャルの表示に関するバグが修正されました。

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ADFprep: scripting

スクリプト作成を容易にするためのモジュールであるadfprepが新たに追加されました。これにより、ユーザ作成のスクリプト内でADFのインプットファイルが簡単に作成できるようになりました。例えば、複数の分子構造に対して同一の計算タイプを設定する、あるいは同一の分子構造に対して基底関数や数値積分などの計算に必要なパラメータをいくつも変えた設定をする場合など、ADFのインプットファイルを網羅的に作成する場合に便利です。

ADFreport: reporting results

スクリプト作成を容易にするためのモジュールであるadfreportが新たに追加されました。これにより、ユーザ作成のスクリプト内でADFの計算結果の解析が非常に簡単に行えるようになりました。adfreportは.t21ファイルを入力ファイルとして使用します。.t21ファイルに保存されたADFの計算結果を、HTML形式、タブ形式、あるいは他のプログラムの入力として使用するための標準出力として取得できます。複数の計算結果を一覧で表示するなど、計算結果の比較にも役立ちます。また、HOMOやLUMOなどの3次元データを画像ファイルとして一括して保存することも可能です。

ADF-GUI: GUIPrefs module added

新モジュールのGUIPrefsが追加されました。すべてのGUIモジュールのpreferenceの設定がこのモジュール上で行えるようになっています。このモジュールは、SCM -> Preferencesの選択で起動できます。

ADF-GUI: adfjobs

ADFjobsにTools/Prepareメニューが追加されました。このメニューを選択すると、adfprepモジュールの設定用ウィンドウが開き、ADFのインプットファイルが網羅的に作成できます。

ジョブIDが取得できなくなるバグが修正されました。

ADFjobsの画面の拡大・縮小と連動して、ジョブ名を表示するフィールドの表示領域が調節されるようになりました。これにより、非常に長いジョブ名が付けられた場合にも、ジョブ名の一部が隠れることなく表示できるようになりました。ADFjobsの検索フィールドが一つに統合されました(検索フィールドはAND検索が可能です)。

ジョブ名を表示するフィールド左側のジョブアイコンをシングルクリックすることで、選択したジョブがADFinput(またはBANDinput)で開けるようになりました。

リモートマシン上に保存されているキューの設定情報をローカルマシンのキューの設定に反映できるようになりました。

ADF-GUI: other improvements

ADF-GUIおよびBAND-GUIにおいて、原子に対して付けられる番号が1から始まるように変更されました。

ADFinputのPreoptimizationとして、DFTB(*1)と外部プログラムのMOPAC2007(*2)が
選択できるようになりました。
*1 DFTBプログラムを使用するには、パラメータファイルのダウンロードが必要です。
(http://www.dftb.org/
*2 MOPAC2007のライセンスは別途用意する必要があります。
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/mopac/index.html

Ramanスペクトルを計算するための設定パネル(Ramanパネル)が新たに追加されました。Ramanパネルでは、Raman強度を計算する振動数の範囲を指定することができます。また、対称性を考慮して計算したRamanスペクトルの表示にADFspectraが対応しました。

ADFviewがNBOの可視化に対応しました。ADFinputにOrbitalsパネルが新たに追加されたことで、NBO計算の設定も行えるようになりました。ADFviewは、Boys-Fosterの局在化軌道とNBO解析から得られたNLMOの可視化にも対応しています。

原子間の結合が今までのチューブ表示だけでなく、細い線でも表示できるようになりました。結合に付けられた色の設定が変更できるようになりました(結合の色は結合している原子に付けられた色と連動して変更されます)。

分子をCapped Bonds表示で描画できるようになりました。

原子半径の大小を、原子電荷などのスカラー値の大小で表現して描画できるようになりました。原子電荷などのスカラー値に応じて原子に色を付けた場合に、スカラー値と色の対応を示すカラースペクトルが表示できるようになりました。

ADFview上でMOなどの3次元データをcubeファイルで保存できるようになりました。

ADFmovie上で構造最適化過程などの動画を.amvファイルで保存できるようになりました。

ADFlevelsにおける軌道相互作用の表示機能が改善されました。

ADFinput、ADFmovie、ADFviewおよびBANDinputにおいて、原子名、原子電荷、原子半径などの情報を複数同時に表示できるようになりました。また、これらの表示情報が更新できなくなるバグが修正されました。

BAND

周期系に対して以下の計算機能が追加されました。
・ 遷移状態探索
・ 数値微分による2次微分行列の計算
・ 拘束を課した構造最適化計算
・ ESR Aテンソル・gテンソルの計算
・ Meta-GGA汎関数によるSCF計算および解析1次微分
・ SZ基底関数系による計算
・ 改良されたDOSの計算(ピークが欠落する問題の改善と計算速度の向上)

数値微分による2次微分行列の値から、ユニットセル内の原子の振動数が計算されます。

ESR Aテンソルは、非相対論またはスカラー相対論のスピン分極計算に基づいて計算されます。一方、ESR gテンソルの計算は、スピン制限を課した2成分の相対論計算に基づいて計算されます。

DOSを計算するには、複数のノードを必要とする場合がありましたが、現在その問題は解決され、DOSの計算がオンザフライで実行されるようになりました。また、DOSの計算方法が改良されたことにより、鋭いピークが欠落する問題が改善されま
した。

BAND-GUI: New BANDdos module

新モジュールのBANDdosが追加され、状態密度(DOS)が表示できるようになりました。BANDdosは、部分状態密度(PDOS)の表示にも対応しており、どの原子に対して描画させるかを分子描画エリアの画面上で視覚的に設定できます。

BAND-GUI: other improvements

BANDinputが以下の計算の設定に対応しました。
・ 遷移状態探索
・ 数値微分による2次微分行列の計算(振動モードのアニメーション表示にも対応)
・ 拘束を課した構造最適化計算
・ ESR Aテンソル・gテンソルの計算
・ SZ基底関数系による計算

また、BANDstructureにおいて、バンド構造図の拡大・縮小およびその描画領域の変更が可能になりました。

COSMO-RS

新製品のCOSMO-RSがリリースされました。COSMO-RS (COnductor like Screening MOdel for Realistic Solvents) 法により、液体状態の純物質および混合物に対して、以下の熱力学物性の予測が可能です。
・ 活量係数
・ 溶解度
・ 分配係数
・ 過剰エネルギー
・ 沸点
・ 気液平衡

COSMO-RSには、計算の設定および結果の可視化を行うためのグラフィカルユーザーインターフェースがあります。COSMO-RSの使用法に関しては、マニュアルおよびチュートリアル資料が用意されています。

DFTB

DFTBプログラムが追加され、SCC-DFTB (Self-Consistent Charge Density-Functional Tight-Binding)法による計算が可能になりました。この方法は、密度汎関数計算にタイトバインディング近似を適用しており、半経験的手法に分類されます。通常のDFT計算に比べ、より近似的な手法にはなりますが、非常に高速に計算することが可能です。DFTBプログラムを使用するには、計算する分子に含まれる全ての原子対に対して、パラメータファイルが用意されている必要があります。

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